ドイツの花粉症
寄生虫減った旧西独で多発
三年前、ドイツのハンブルクに駐在しておられた方から、手紙をいただいたことがある。
「昨日のドイツの新聞に掲載された一部です」と切り抜きが入っていた。

見出しに、「花粉症急増の原因は寄生虫の減少。ハンブルク大医学部発表。アレルギー病治療に光明」とあった。

ハンブルク大の研究者たちは、数年前、ドイツ国内の九歳から十一歳の子どもたち約八千人を対象に、花粉症の罹患(りかん)率を調べた。その結果、旧東独で暮らす子どもの罹患率は2.7%なのに、旧西独の子ともは8.6%もあった。

この傾向は花粉症はかりでなく、アトピー性皮膚炎やぜんそくの発症率にもあてはまり、いずれも、旧東独よりも旧西独に住む子どもたちの方が二、三倍も高い率で発症していた。
数千人のドイツ人の成人を対象にした別の調査結果が昨年、専門誌に発表され、四十五歳以下では、子どもの場合と同様に、旧東独の住人の方が旧西独の住人よりもアレルギー性疾患の患者が少ないとのことだった。

かつての東独で大気汚染が進んでいたことを考えると、花粉症患者が旧西独より少ないのは意外な感じがする。

ハンブルク大の研究者たちは、アレルギー症状を抑える血液中のI&E抗体の値が、旧東独の子どもたちの場合、旧西独の子どもたちよりはっきりと高いことを見つけた。
この高さは、回虫はとの寄生虫の感染によって引き起こされたものであることも確認している。

つまり、旧西独の人々に花粉症などのアレルギー症状が多く見られるのは、生活水準の向上により、寄生虫が減っていることが関係していると、ハンブルク大の研究者は結論つけたのだ。

また、ドイツの別の研究グループは、旧東独の住民は、寄生虫ばかりでなく、ウイルスや細菌にも旧西独の住民より高い割合で感染しており、これらの感染によって、旧東独住民が花粉症などのアレルギー病にかかりにくくなっていたのではないか、という考えを示した。

日本でスギ花粉症の第一例が見つかったのは、1963年で、栃木県日光市の患者からだった。今見られる、延長37㌔に及ぶ約1万3千本のスギが日光に植えられたのは、約3世紀前の17世紀前半であった。音の日本人はスギ花粉が飛んでも花粉症にならなかったようだ。

日本人も昔から寄生虫と共生してきた。しかし、第2次大戦後、徹底して寄生虫の排除を行った。スギ花粉症第1例の出た63年は、高かった日本人の寄生虫感染率が10%を切った年でもある。(東京医科歯科大学教授)
《出典》朝日新聞 (10/03/02) 前頁      次頁