サグラダ・ファミリア大聖堂を音響工学で分析
九州芸工大
 アントニオ・ガウディ(1852~1926年)が生涯をかけて設計し、構造上の謎が多いスペイン・バルセロナの未完の大聖堂「サグラダ・ファミリア」。これを音響工学的に分析する世界初の研究に、現地のカタルーニャ工科大と九州芸術工科大(福岡市)が共同で乗り出す。ガウディは12の尖塔(せんとう)に約80の鐘を取り付ける構想を持っていたといわれる。九州芸工大の吉川茂教授(楽器音響学)は「将来はガウディが考えていた鐘を鳴らしてみたい」と夢を語る。
 大聖堂は1882年に建設が始まり、ガウディは翌年から事故死するまで43年間、設計施工に当たった。死後も建設が続けられ、これまでに「誕生の門」と「受難の門」(各4塔、高さ約140メートル)が完成している。
 共同研究のきっかけになったのは、現地でガウディ建築を25年間研究している建築家、田中裕也さん(50)の仮説だ。「誕生の門」には大きさが違う七つの部屋があり、床には不自然な1メートル大の穴も開いている。田中さんはこれらの一見むだに見える構造を「鐘の音を制御して聖堂内に響かせる消音室だ」と考えた。
 この話を知人のデザイナー、藤野寧(やすし)さん(50)=福岡市南区=が聞き、日本で唯一の音響設計学科を持つ九州芸工大に連絡。興味を持った吉川教授が9月に現地に渡り、カタルーニャ工科大と共同研究することで合意した。
 内部構造に詳しい同工科大が中心となって本物の25分の1程度の模型を製作。専門の無響室に入れて模型の内外でスピーカーから音を鳴らし、どのように響き振動するのかなどを解析する。
 また「誕生の門」にはガウディが試作したラッパ形の金属製の鐘(長さ2・8メートル)が一つだけ残っている。両大学は文献などを参考に音楽家の協力を得て、ガウディが大聖堂に取り付けようと考えたさまざまな鐘のイメージも検討し、将来的には鐘の製作も目指す。
 吉川教授は「実際に建物を見て、ガウディは明らかに音をイメージして設計したと感じた。音楽ホール建築経験が豊かな日本の音響工学を生かし、ガウディが考えた鐘の音の実現に挑戦したい」と話す。
 【アントニオ・ガウディ】 奇抜な外観の作風はゴシック建築の合理性、イスラム風の装飾性を融合した独自のアールヌーボー様式と言われる。近年、環境への適応や先駆性が再評価されている。代表作にサグラダ・ファミリアやグエル公園などがある。
《出典》毎日新聞 (14/10/10) 前頁      次頁