世界初「紙の建築」を考案・実用化
建築家 坂 茂さんに聞く
「紙の建築材」というと不安感も…。実物を手にすると安心しますが。
紙といっても紙管、布地を巻くシンやトイレットペーパーのシンを丈夫にしたようなものです。これを木の柱やハリのように使うわけです。
その強度は紙の種類、管の直径、巻きの厚みによって決まります。紙は木やコンクリートと違って建築基準法の構造材として認められていませんでしたから、強度実験を繰り返し建設大臣認定をとらなければなりませんでした。それとジョイントの認定ですね。苦労しました。

耐久性はどうですか。
始めて10年ぐらいですから何とも言えませんが。でも、紙の昔の本が腐るわけではありませんから。外国の人に「木はとれぐらい持ちますか」と質問すると「分からない」。彼らは石積みの建造物ですから、日本の数寄屋造りは仮設にしか見えないでしょう。日本人はジョイントのシステムを工夫し、継ぎ手を編み出し、材料の強度は弱くても、その組み合わせによって建築物の強度を確保することに成功したわけです。建物の強度や耐震性は材料の強度と全く無関係です。阪神大震災で木の建物が残って、鉄筋コンクリートのビルが倒れた。どう構造設計するかによるんです、強度も耐震性も。

環境に与える影響を考えると計り知れない長所がありますね。
今、古紙が余っていて、新聞は回収するが雑誌は引き取らない。ごみになれば地球温暖化、ダイオキシンの発生源とマイナスの要因ばかり。再生紙の利用は木材の代替だけでなく、マイナス要因の除去に。それと紙管は木材に比べ低コスト。厳密には離しいのですが、10分の1ぐらいでしょうか。輸送に便利で、加工、防水、着色も簡単で優れています。軽いので基礎も簡便で工期も短縮できます。施工もボランティアでも十分できるぐらいで、特別な技能はいりません。

いいことすくめですね。欠点はないのですか。
すべての建物にというわけにはいかないでしようが、特性を生かした用途はたくさんあると思います。紙管の製造は大きな設備は不要で、すでに中小のメーカーがあり、既存の設備で製造が可能です。本棚、机、いす、ベッドなど家具にも作れます。大量生産すれは、学生の下宿生活に必要な家具は10万円ぐらいでそろうでしょう。ベンチャービジネスとしても成り立つのではないでしょうか。

坂 茂さん
ばん・しげる 1957年東京生まれ。
高校卒業後渡米し、南カリフォルニア建築大を経て、
クーパー・ユニオン建築学部卒。85年「坂茂建築設計」を設立。
阪神大震災後の神戸に建てた教会と仮設住宅で毎日デザイン賞を受賞。
日大、横浜国大の建築学科非常勤講師。
国連難民高等弁務官事務所コンサルタント。
《出典》毎日新聞 (10/05/12) 前頁      次頁