「世間よし」近江商人の教え
論説委員室から
江戸の昔から、多くの成功者を出した近江商人の世界に「三方よし」という言葉がある。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」。つまり、その商いで、売り手は利益を得、買い手も欲しいものを得心のいく値で手にする。そして、肝心なのは、三つ目である。それが社会に役立つ商いであってはじめて、成功するという意味だ。
 もうけたお金を社会に還元する意味も含んでいる。商活動による社会貢献。すなわち、「世間よし」である。
 「手前みそですが、いまの時代では、環境への配慮を最優先にした企業活動をしなさい、という意味にも理解できます」そんな解説を、近江商人の地元にある滋賀県立大学の日高敏隆学長から聞いた。
 この大学には、四年前に開設された環境科学部があり、環境保全や生物資源のリサイクル、その管理システムの専門家を育てている。受験生の人気は高い。競争倍率、偏差値ともに、毎年のように上がっている。
ことしも、前後期あわせて約800人が出願した。環境科学部の各学科の平均倍率は約5.5倍に達した。
 今春、初めての卒業生が出る。その4割近くが大学院などに進学を希望している。フィールドワークを通して、環境保全について勉強する楽しみを見つけた学生が多い、という。
 しかしながら、まだ就職の決まっていない学生がいる。この不況下、新しい学部の初の卒業生ということがハンディになっているそうだ。多くの企業の関心が、まだ環境問題には及んでいない、ということの証明かもしれない。
環境保全の専門知識を身につけた学生が、各方面から引っぱりだこになる。そんな日が来てこそ、「世間よし」である。
《出典》朝日新聞 (11/02/08) 前頁      次頁