雨水を楽しむ家を建てる
夢を追う:鈴木信宏さん
 東京理科大教授の鈴木信宏さん(61)が設計した雨水の完全循環住宅が今月中旬、東京都国分寺市に完成する。キーワードは「ゆっくり流す」だ。
 屋根材の継ぎ目に雨をため、雨が上がった数時間後も滴が落ちる。滴は地下の3㌧の水槽にため、ポンプで屋根にくみ上げてまた屋根をぬらす。涼しさと光が楽しめる。室内でも水を観賞できるよう庭の池をガラス張りの壁の下から屋内に45㌢張り出させた。裏庭にはたるを置き、あふれた雨水でコケを生やす。ひさしをガラスにして、雨模様を楽しむ工夫もある。
 都市では雨は厄介者だ。さっさと下水道へ流してきた。この家では、雨水の一部は少しずつ土に染み込み、一部は蒸発して自然に返る。「一気に流すから洪水が起こる。ゆっくり流せば潤いが生まれる」
 ただ、建設費は2割は高く、斬新なアイデアで、建てるには勇気もいる。「家族を説得するなら、大人ではなく子供から。子供の成長にもいいはずです」
 北海道生まれ。高度経済成長時代に上京した。66年、米国に留学した後、ニューヨークでペイリー・バークという公園を見た。横12㍍、縦30㍍と小さいが、ニセアカシアが茂り、奥に公園と同じ幅、高さ6㍍の滝があった。低い石段を上ると、しぶきの中、水に触れられた。市民は仕事の前や祈りの帰りに立ち寄り時間を過ごしていた。都会ながら、人がくつろぐ「水空間」があることを知り、水を取り込んだ建築を目指すきっかけになった。89年、埼玉県朝霞市に1軒目を設計した。
 「雨をためてあたかも湧水点のように変え、利用し楽しんではどうですか」とほは笑む。 【去石信一】
《出典》毎日新聞 (14/06/03) 前頁      次頁