広がる注文住宅のCM手法
建築主が工事を経営管理
■適正費用で品質確保 完成まで時間、手間かかるが
 耐震データ偽造や悪質リフォーム問題で建築業界への信頼が揺らぐなか、注文住宅を適正な費用で、しかも品質・透明性を確保して建築しようという手法「コンストラクション・マネジメント」(建築主による工事の経営監理HCM)が広がりつつある。建築主(依頼主)が家造り全般にかかわる手法のため手間と苦労はあるが、施工内容を細かく選択・把握できるなどメリットも多いようだ。【丹野恒一、写真も】
 一般的な住宅建築はハウスメーカーや元請け工務店が一括請負して下請けの業者に工事を割り振るのに対し、CMは建築主が臨時の工務店社長のような立場になり、基礎、外壁、建具など各分野の専門工事会社と直接契約するのが大きな違いだ。
 ただ、建築主は専門知識も経験もないため、設計から引き渡しまでの監理・調整役は、工事会社と利害関係のない1級建築士らがコンストラクション・マネジャー(CMr)となって二人三脚でサポートする。
 CMは60年代に米国で始まり、日本でも大型建築では導入されてきたが、住宅分野には普及していなかった。そこで大阪、京都を中心に全国の1級建築士と工事業者など約100社が昨年9月、「CM・アーキテクツ有限責任事業組合」(事務局・堺市)を結成し、CMの普及やCMrの養成、補償体制の強化を図ることにした。
 発起人の一人、中村一幸さん(1級建築士、大阪市住吉区)は「欠陥住宅が建てられる原因は、中間経費が膨らむ多重下請け構造にある」と指摘する。下請けの末端の業者ほどコストダウンのしわ寄せがきつく、利益を確保するために手抜き工事を犯しやすいという。
 コストを具体的に比較するとどうか。
 中村さんによると大手ハウスメーカーの場合、モデルハウスの維持や宣伝営業費が膨らみ、契約金額のうち工費を除いた経費・利益は30~45%を占めると言われる。工務店だと地域差があるが20%弱~30%。CMは中間経費が省かれる代わりにオリジナルの設計料とCM委託費を合わせて最大約20%が工費の他にかかる。
 2000万~3000万円台の住宅工事の場合、一般工務店の見積もりと比べてCM工事費の方が数百万円以上抑えられることもある。一方で、CMは建築主が細部まで自分で決めなければならないために自己責任の負担が重く、設計着手から住宅完成まで1年近くかかるデメリットもある。
 「CM・アーキテクツ有限責任事業組合」では組合員がそれぞれ定期的にCM講座を開いている。詳しくは事務局(電話O72-240-l145)へ。

■余裕出た分を「こだわり」に(体験者がアドバイス)
 CMで住宅を建て昨年11月に入居した大阪市東住吉区の主婦、三井聖子さん(31)に体験を聞いた。
 三井さんは勤務医の夫(48)、幼稚園に通う長女(4)との3人暮らし。「書斎のある明るい家」にこだわって建売住宅を見て回った末にCMを知り、中村さんに依頼した。設計は約半年間、週1回のペースで中村さんに会って希望を伝えながら細部まで詰めた。「予算上、何を削るか何を残せるかと頭の痛い日々だった」と三井さん。
 その後、各工事分野で最低2社ずつ計40社以上を集めた発注説明会を開き、自ら見積もり提出を依頼。業者を選定した。
 CMで予算に余裕が出た分は、台所の床を大理石タイルにしたり、洗面台をインターネットで取り寄せたイタリア製にした。リビングは天井を3.2㍍と高くし、抜群の採光になった。
 建築工事費は床面積46坪(151.8平方㍍)で税込み約2490万円。他に中村さんにCM委託費として約500万円を支払った。
ちなみに、同内容の工事で地元の工務店から出された見積もりは約3980万円だった。 三井さんは「家造りにこだわりがある人にはCMが向いている。多くの業者とやりとりするので、それが苦痛な人は無理かもしれない」とアドバイスする。
《出典》毎日新聞 (19/02/01) 前頁      次頁