潮田道夫の千波万波
「罰当たり」の帰結
 日曜日の本紙は何といっても「毎日かあさん」が楽しみ。作者の西原理恵子さんが「天下一の罰当たり娯楽場」と評した施設をこ存じ?
 93年夏、千葉県はJR京葉線南船橋駅前にオープンしたバカでかい屋内人工スキー場「ザウス」である。500㍍近い人工雪のスロープだ。
 ワシントン・ポストは面白がつた。「日本ではなんと真夏でもスキーができる」。長文の紹介記事を掲載した。スキー狂のトム・リード東京特派員(当時)の記事である。「結構楽しんでしまったよ。アハハ」とか書いてあった気がする。
 だが、02年の秋に閉鎖された。背景には社会の変容があるのではないか。日本にはあの手のバブルっぽい施設が似合わなくなった。跡地には輸入家具のイケアの巨大店舗が建ち、買い物客はお値打ち品を物色する。
 屋内スキー場はアラブ首長国連邦のドバイに復活していた。巨大ショッピングセンター内に05年秋にオープンした。「スキー・ドバイ」
 罰当たり施設は「ジャパンマネー」とともに消え、オイルマネーの再台頭とともに、「スキー・ドバイ」として再生した。
世界のマネーシフトをきれいになぞっている。
 ドバイは景気がいい。いま、中東一のリゾートセンター兼金融センターに脱皮中。ラスベガスも真っ青の奇抜なビルや施設だらけである。高さ800㍍の世界一のノッポビルも完成間近だ。
 人工スキー場は室内氷点下4度、室外は50度。灼熱の砂漠の国で楽しむスキー。バブルだねえ。
しかし、こんなことしてていいわけがない。国連は地球温暖化で、スキーは標高1500~1800㍍以上の高山でないとできなくなると警告を発した。実際アルプスでも日本でも、雪不足でスキー場が次々と閉鎖に追い込まれている。
 西原さんはやはりカンがいい。「罰当たり」。何もかも、この一言に尽きている。(論説室)
《出典》毎日新聞 (20/05/18) 前頁      次頁