物騒なおはなし
浪費のささやき(スペース倍増)
経企庁長官の私的研究会「スペース倍増研究会」が会合を重ねている。
途中からメンバーの意見を入れ「スペースとゆとり研究会」と改称したが、もとの呼び名のほうが狙いはくっきり。
低迷する個人消費の活発化には住宅やオフィスの広さの倍増をはかるのが近道というわけだ。

確かに「これ以上モノを買え」といわれてもスペースがない。家が倍なら家電も家具も倍置けるから、効果はあるだろう。
でも、なにを今さらが、率直な受け止め方ではないか。農村から流入してきた産業戦士」予備軍を無駄なく収容するために、日本の集合住宅は極限の効率化を目指した。
そこに食堂と台所を一体化するDK理論も都合よく採用された。

高度成長期以降、これだけ住宅問題が深刻なのに、学術的な研究が現実政策に有効な形で反映されずに来た国も珍しい。

バブル期に不動産を購入した家庭の含み損は二千万円近いとの試算もある。現状追認の住宅政策に終始したあげくのスペース倍増。どうしても甘言に思えてしまう。
(編集委員・松溝 一清)
《出典》朝日新聞 (10/03/27) 前頁  次頁