「犯罪より怖い」
NYで「落下物事故」続発
半年で20件2人死亡
レンガ崩落 歩行者びくびく

ニューヨーク市内ではこのところ、不安げに空を仰ぎながら歩く人の姿が目立っている。古くなった建物の壁や窓が突然崩れ落ちる事故が相次いでいるせいだ。半年間で二十件を超え、直撃された歩行者が二人亡くなった。好景気による大型工事ブームの陰で、老朽ビルの補修に手が回らないことが背景にあるようだが、市当局もビルの安全検査基準の強化などに乗り出した。
「暴力や犯罪のことは以前ほど心配していない。何が怖いって、今じゃ頭上の建物が一番危ない」。ブルックリン地区でPTA団体の代表を務めるエイダ・ガルシアさんはそう話す。今年一月、近くの小学校の屋上からレンガ片が崩れ落ちる事故が起き、たまたま真下を歩いていた十六歳の少女が犠牲になった。「いつか自分も」という不安がぬぐえないという。
ニューヨーク市内では昨年暮れ以来、マンハッタンを中心に同様の事故が続いている。ヤンキースタジアムを除けは、いずれもにぎやかな通りに面した築後三十年から九十年ほどの建物で、レンガや石壁、タイル、窓ガラスなどが崩れ落ち、歩行者を直撃したり、かすめたりした。
ジュリアーニ市長は何度も現場に急行したり、犠牲者の葬儀に列席したりしているが、管理責任を問う声も出ている。
市は条例を改正し、七階建て以上のピルの所有者に対し、外壁を五年ごとに点検し、危険個所は一カ月以内に補修するよう義務づけた。市建造物管理局によると、市内に七階建て以上のビルは約一万軒あり、うち約七千軒がマンハッタンに集中。築後五十年から百年
を経た建物も少なくない。
なぜ、同じようは事故が重なるのか。好景気で道路補修や商業ビル新築などの大規模工事が急増し、その振動が事故を招いているとの指摘がある。雨や強風の日に事故が多いことから、「急激な外気温の変化のせい」と分析する専門家もいるが、いずれも推論の域を出ていない。
市建造物管理局の広報担当テッド・バークハーン氏は「問題は、所有者がきちんと維持管理をしているかどうかだ。事故が起きたビルは、例外なく、何年も補修することなく放置されていた」と力説する。原因が何であれ、自衛を怠るわけにはいかない。
「遠回りになっても古びたビルのわきは避ける」「できる限り早足で通り過ぎる」「いつも頭上に注意しながら歩く」。直撃を避ける方法を語り合う声が街のあちこちで聞かれる。
《出典》朝日新聞 (10/05/23) 前頁  次頁