子供を発想の「泉」に | |
---|---|
21世紀 学校にゆとりを | |
教育課程審議会は「ゆとりの中で生きる力をはぐくむ」を教育課程改定の基本方針に掲げた。現行の教育内容の三分の一が減る算数と中学の数学を例に、委員として議論をリードした数学者の秋山仁さん(東海大学教授)に、削減の考え方について聞いた。 --会議の席で「分数の割り算はどうして分母と分子を逆さまにしてかければいいのか、小学生が納得できるように説明できますか」と問いかけたら、顔を伏せた人が多かったそうですね。 今の算数と数学は、子どもたちの頭に知識をたくさん注入して、分かったつもりにさせている。「納得できなくても、そういうものなんだ」という教え方。だから、つまらない、役に立たない、分からない。 この「三ない」が原因で、算数嫌い、数学嫌いが増えて、深刻な問題になっている。 時間数が減る以上に教える内容を減らさないと、ゆとりは生まれない。けれど、日常生活で欠かせない知識や計算、思考力を育てる内容は残さないといけない。そこで、分かりにくくて、納得できないテーマは先送りするか削除すべきだと主張した。 --どんな内容が分かりにくいのでしょう。 小学校六年で勉強する「円すい」などの体積の内容は、実は高校で勉強する積分を使わないと、理解できない。質問すれは、「円柱の体積の三分の一」と答えが返ってくるが、公式を信じ込ませているだけ。数学は宗教ではない。 重要なことをみんなが納得できるまで教えよう、というのが基本的な考え方だ。 「暗記、詰め込み、計算力重視」から「納得、じっくり、考え方重視」へと教育の質が大きく変わる必要がある。 --知識量が減って大丈夫だろうか、と心配する人もいます。 英国の詩人ウィリアム・フレークが「水槽は(水を)たたえ、泉はわき出す」という詩を作っている。 頭という水槽に知識の水をバカバカ注入しても、水は蒸発する。時の経過とともに、知識は忘却のかなたへ沈んでいく。 子どもの頭を泉にすれは、発想やアイデアが次々とわき出てくる。 諸外国に向かって新しいものをつくり出せる若者を育てることにつながる。 --先生たちに具体的に望むことは。 紙と鉛筆で授業をしてきたのを切り替えて、作業的、体験的な学習にしてほしい。立方体の体積や表面積を求めるだけでなくて、立方体を実際に作ってみる。観察や実験をすれば、子どもたちの頭に残る。応用もできるようになる。 先生たちは、今まで以上に努力が必要になり、力量が問われることになると思う。 | |
《出典》朝日新聞 (10/06/23) | 前頁 次頁 |