頑張り主義を捨てようよ | |
---|---|
歌手:加藤登紀子 | |
「あんたなあ、水は動くから生きているんだよ。動かん水は死ぬ」 琵琶湖で今も漁師をしている男が言った。 「昔の琵琶湖は水量が季節で変化してたんやが、今は川に水門つけて調節してるんよ。それで湖の水が動かんようになったんや。死んだ水で魚が生きられるはずがないやろ!」 ヨシのはえていた内湖も干拓して田んぼに変えた。川にはすべてコンクリートをぶちこんだ。湖岸は埋め立てて遊歩道をつけた。結果は死んだ水!? あーあ、何とまあ日本人は頑張ってきたもんだ。 人間も「動かん水」の中で今、死にそうじゃない? 窓のないビル、歩かなくてもいい動く歩道、退屈な密室の会議、自動センサーの水道やトイレ、会話のいらないパソコン‥‥。体も心も動いてない今の日本人って、本当に生きてるの? もともと世界に類を見ない自然に恵まれてきた日本。周りには美しい風景があり、きめ細かい知恵と習慣を持ち、何より自然の風物を愛してきた日本人。 この第一の価値を、無残にたたきのめした数十年間の「右肩上がり」の日本、大きな勘違い、してたね。かえすがえすも残念だ。 幸い「頑張って日本を変えよう」の第二の価値はつまずいた。私たちに至福をもたらすといわれたダムも、曲がりくねらない川も、埋め立てだらけの海岸も、がっくり来るような風景を増やしただけで、大きな負債と自然への多大な負荷を残したまま無用の長物となろうとしている。 犠牲になったのは、鳥や魚だけじゃないと、だれもが気づき始めた。今こそ変な頑張り主義を捨て、第一の価値を取り戻して出直すときだと思う。 まだまだ日本も捨てたもんじゃない。職人の技も自然の教えも生きている。世界の環境先進国になることだって夢じゃないと思うし、それしか生き残れる道はないと思う。 本当にハンサムな日本人になろうよ。生きている水の中でのびのびと手足を動かして‥‥ アメニモヌレズ カゼニモフカレズ アツサ サムサノクルシミモシラズ アタエラレタショクモツヲ ダマッテクチニシ セカイジュウノ ウミト モリヲ クイチラシテイルコトニ キヅキモシナイ ソンナ ニッポンジンニ ワタシハ ナリタクナイ | |
《出典》朝日新聞 (14/01/05) | 前頁 次頁 |