「失敗学会」設立を準備する 畑村洋太郎さん
「夢は失敗を疑似体験できる失敗博物館をつくること」。61歳。
 失敗したときの教訓を広く共有して予防に役立てようという「失敗学」の提唱者。
 東大教授を昨春、定年退官した。微細加工技術の開発で知られ、取得した特許は200件を超える。専門は産業機械工学で、設計を教えていた。
 だが、「僕自身の失敗例を話すと学生の目の色が変わる」のに気づいた。それをきっかけに、研究室OBの現役技術者約40人と各種の失敗事例を分析した「続々・実際の設計-失敗に学ぶ」を96年に出版した。
 「知人の立花隆さんがおもしろい本だとあちこちで紹介してくれて、広まった。『失敗学』と名付けたのも、実は彼なんです」
 いまは工学院大教授のかたわら、文部科学省に設置された「失敗知識活用研究会」の委員として、失敗事例のデータベース化事業にも取り組んでいる。
 「あんまり問い合わせが多いから、いっそ学会をつくって情報発信と交流を図ろう」と、7月に非営利組織(NPO)法人の設立を東京都に申請し、受理された。一般にも参加を呼びかけ年内にも発足の見込みだ。「学会で扱う失敗事例は中傷など悪用される恐れもある。公正さと透明性を確保して、それを防ぐため」
 茨城県東海村の臨界事故やH2ロケット打ち上げ失敗……。失敗の題材は世の中にいくらでもある。
 「何も行動せず前例をまねるだけなら失敗はしない。だが、そうした態度が今の閉塞(へいそく)状況を招いている。未知に挑戦して犯した失敗を袋だたきにしないで、積極的に活用すべきです」 (文・池田洋一郎)
《出典》朝日新聞 (14/08/15) 前頁  次頁