伊坂道子の住アドバイス
■木材と防火 機能的て外観も良く
 今年竣工した神奈川県逗子市の住宅では、木造部の外壁に米杉板を張りました。家に木の表情や風合いが加わって、すがすがしい仕上がりです。以前にも八ケ岳で木造の別荘を板張りの外壁にしましたが、都市計画区域外でしたので防火規制はゆるやかでした。今度は市街地なので配慮が必要でした。
 採用した外壁材は天然のウエスタンレッドシダー(米杉)に不燃処理をしたもので、規定の施工法をとることで準防火地域でも使用できる認定品です。普通の木材と同じように時と共に表情を変えるのも魅力でしょう。
 こうした材料は他社でも不燃木材に耐火ボードなどの防火製品を併用することで認定されたものがありますし、国産の針葉樹を不燃加工するメーカーもあります。先日は東京都内で9階建てビルの表面を不燃木材で仕上げた建築作品が発表されました。その建築家の感性には敬服しています。
 木造建築の防火は木の骨組みを燃えないもので包むことが主流でした。そのための材料や工法は増え耐火材で内外を覆う木造3階建ての準耐火構造も一般化しました。モルタルやボード、タイルの外壁が連なる風景は、住宅街が不燃化した証しです。
 でも一方では木の防火性も再発見されてきています。
木材は燃えると表面が炭化しこれが断熱の役割を果たして、それ以上は燃え進みにくい性質があります。熱で急激に変形する鉄よりもこの点では木のほうが有利です。近年は木が燃えて炭化する部分を「燃えしろ」として、部材をひとまわり大きくとる設計法が導入されました。大きい断面の部材なら表面に火がついても建物が倒壊しにくいという発想です。大規模な公共施設などでも木の美しさを味わえる建物がふえてきました。
 また2年前からは日本建築の特長でもある真壁、つまり木の柱や梁を隠さないで仕上げる壁も、条件を満たせば防火構造と認められるようになりました。軒裏に細かく並ぶ垂木や無垢の板をあらわにするのも日本らしい造り方ですが、同様に30㍉以上の材料を用い、外壁との隙間に45㍉以上のふさぎ材を用いれば防火構造となりました。不燃加工もいりません。
 今流通している木造住宅に、すぐには馴染まないかもしれませんが、地域の個性が発揮できそうな懐かしい感じの町並みや、木の優しさがある新しい質感の住宅地ができてきたら素敵だと思います。(建築家)
《出典》毎日新聞 (18/09/21) 前頁  次頁