水道橋博士が語る東京の魅力
はかせのはなし(東京都広報) 水道橋博士(浅草キッド)
 師走到来。この一年を振り返ると、10月の五輪招致の落選は、かえすがえすも無念ですが、すっかり、今回の招致運動そのものが大失敗、無意味に語られるのも、さらに残念に思う今日この頃です。
 確かに、五輪招致への立候補は、世界中、どこの都市にとっても一か八かの賭け。結果責任、オールorナッシングで語られるのも世の倣いでしょう。
 しかし、それを承知の上、招致活動に勇気を持って手を挙げた行為に対して、「未来へ遺産が残っていく」という意義を問いかけたいのです。
 例えば、81年のI0C総会で、五輪招致に名古屋がソウルに敗れたときは、「名古屋だけに、I0Cの委員へのウイロー(!)が足らなかった」と、今も語り継がれたものですが……冗談はさておき、昨今の招致活動は五輪憲章の通り、フェアプレーが徹底されており、負けてもなお清々しさだけは残ります。
 さて、今回、後世に語り継ぐ五輪招致の遺産はないものでしょうか?
 落選が決まった直後に石原都知事は、このようなコメントを残しました。「東京が落ちたことは本当に残念だが、日系人の多いブラジルに決まったことはある意味良かった。なにしろ、リオデジャネイロのブラジルが、BRICsでは唯一、京都議定書にサインしていて、環境に配慮した五輪になるだろうし……」
 浅草サンバカーニバルでも東京と縁があるブラジルですが、これで縁も緑もある、結びつきになりそうです。
 都知事が強調するように“環境”五輪を第一に掲げたのは東京でした。
 当然、その五輪開催に向けて始まった運動が、今も数多く残っています。
 特に象徴的なのは、『海の森』構想です。
 この計画は、2016年の五輪開催に合わせた、環境プロジェクトの一環。
 要約して言えば、東京湾上のゴミ埋立地に植樹をして、緑の森として再生する事業です。いまだ知らない方も多いと思いますが、緑化の費用は、募金で集められ、すでに3億2千万円以上*が集まっています。
 「五輪」という一位指名を捨て、「植林」に切り替えたわけですが、環境には金メダル級の貢献が期待されています。
 この構想の指揮をとる、建築家の安藤忠雄さんは、「この『海の森』を起点に緑の回廊を造ろうと考えています。
晴海、皇居、明治神宮外苑、代々木公園などの都心の森を幹線道路の街路樹で結び、グリーンベルトを造ることで、涼しい風を都心に呼び込む計画です」と語っています。
 五輪の代わりに、緑の輪が東京に出来るはずです。
 五輪から輪廻したこの運動が実を結んでいるであろう2016年――。
 緑の回廊に囲まれた東京で、「あのとき、五輪に手を挙げたからこそ、この風が味わえるんだな」と言いたいと思っています。
*21年3月末現在の累計額
《出典》東京都の広報 (21/12/01) 前頁  次頁