【夢を紡ぐ】地球に優しい新技術
シャープDCエコハウス推進センター所長 中川泰仁さん(52)
ムダ排除し生活向上

 シャープが推進する二酸化炭素(CO2)排出量ゼロの家「DC(直流)エコハウス」。プロジェクトを推進する中川泰仁さんは、「無駄を徹底削減し、生活を向上させる」と意気込む。
 電気は、交流(AC)で発電所から家庭に送られる。だが、家にあるテレビやパソコンなど家電製品の多くは直流で動く。ACアダプターが、電気を交流から直流に変換する際、最大10%もの電力が無駄になっている。
 家庭部門は90年以降、CO2排出量を急増させている。「家電メーカーとして、何ができるか」。シャープがたどり着いたのがDCエコハウスだ。配電や家電製品から交流を排除、直流のみを使い、無駄を排除する。
 中川さんは、昨年8月に設立された推進センターの初代所長に抜てきされた。直流配電の研究経験はない。だが、研究開発畑を歩み、イオンで除菌する空気清浄機など、既存の技術を応用したヒット商品を生み出した実績が評価された。
 直流配電も、細々と研究が続いてきた分野。交流を一度直流に転換した後、屋内はすべて直流で配電するなど技術面はほぼクリア。最近は家電製品の作動テストを重ねる。今後は、屋外の太陽光発電を直流で取り込み、電池に貯蔵したり、効率的な電気の配電を実現。「15年にはCO2発生をゼロにして、将来は家庭が電気を生む創エネも視野に入れる」
 部品の見直しや家屋の配電工事などをにらみ、ハウスメーカー、電力会社なども巻き込む。こうした努力が実り、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から09年度以降2年にわたり、直流配電の実証実験の補助金を受けている。
 同じ家電でも交流で動く冷蔵庫、洗濯機、エアコンは年間-兆円市場。「直流で動かせれば巨大な買い替え需要も期待できる」
 ただ太陽光発電の電気は直流だが電圧が300畷で、一般的な家庭の電気(交流)の3倍。危険封じ込めのハードルも残る。また、低電圧の直流と交流を組み合わせたエコハウスを探る他社の動きもあり、今後の規格統一も課題だ。
 それでも「どんな難問にも解決策はある」。技術者魂でプロジェクトを支えるつもりだ。【後藤逸郎】

【直流配電】
 家庭の配電を直流で行うこと。電力会社は現在、交流で家庭に送電。家電製品の多くは交流を直流に変換している。100年以上前の規格争いで、発明王エジソンが推進した直流に対し、変圧しやすく、長距離送電も容易な交流が業界標準となった。直流配電が実現すれば、変換による無駄が減る。これまで以上に省エネが進んだ家電製品が登場し、環境負荷も小さくなると、家電メーカーが注目している。
《出典》毎日新聞 (22/01/15) 前頁  次頁